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田上芳彦さんの本を2冊推薦します。田上さんは、私が予備校の教壇に立っていた頃に同僚だった方で、その後もずっと今に至るまで現役で教え続けている予備校講師のプロ中のプロです。

『トピック別 英作文頻出表現 活用ハンドブック』

田上芳彦著・有限会社プレイス刊

英作文の勉強というと暗唱用例文集を全文暗記するのが昔からの通例ですが、品詞と働きのレベルで英文の構造を考えられる人は、全文暗唱は必要ありません。フレーズを暗記していれば、あとは自分の力でそれを組み合わせて英文を作れるからです。それに、フレーズ単位で暗記すると、全文暗唱よりもずっと少ない労力で暗記でき、さらに必要なフレーズを思い出しやすくなります。

F.o.R.を習得した人は、このことに自然に気がつくのですが、フレーズだけを集めた本がないので、自分でフレーズを抽出しなければならず、これ自体が大変な作業で、それくらいなら暗唱用例文集で全文暗唱した方がまだ楽だとなってしまい、結局旧態依然とした勉強法に戻ってしまうのです。

ところが、とても良い本がすでにあるのです。この『トピック別 英作文頻出表現 活用ハンドブック』は2009年に発行された本です。

私は発行直後からこの本の価値に注目し、2014年発行の『英語リーディング教本ドリル』で紹介したので、私の本の読者は、この本を使っている方がかなりいます。

この本はトピック毎に使用頻度の高いフレーズを集めたものです。たとえば「経済・税金」のトピックを覗いてみると、

・ 日本の国家予算  Japan’s national budget
・ 銀行に預金する   deposit money in a bank
・ -する十分な資金がある   have enough funds to

のようなフレーズが30個出ています。
「読書・本」のトピックだと、

・ 本を途中で放り出す give up reading a book
・ 3ページの3行目 the third line on page three
・ 本屋で漫画を立ち読みする read comic books at a bookstore without buying them

などと出ています。「立ち読みする」はread … without buying themと言えばいいんですね。

ともかく、こういう具合に71のトピック毎に様々な有用なフレーズが収録されています。やってみるとすぐわかりますが、全文暗唱よりずっと楽に覚えられます。

巻末に「自由英作文Tips」として、自由英作文を書くコツが解説されているのも、受験生にとっては魅力的です。
F.o.R.で本当の英語構文を身につけた方にお薦めします。。

『英文法「例外」の底力』

田上芳彦著・有限会社プレイス刊

英文法の例外だけ集めた本と聞くと、マニアックな文法オタクの読む本と思うかもしれません。この本はそういう本ではありません。

著者が、常に大学受験生に教えている中で、英文法の例外ではあるが、正確に理解している必要があると評価した事項を厳選して、一冊の本にまとめたものです。

マニアだけが知っていればいいような些末な知識ではありません。

たくさんの驚くような事項が紹介されています。少し例をあげると、

・ That’s a nice shirt you’re wearing today. Where did you get it?

はどうでしょう。shirtとyouの間に関係代名詞が省略されているように見えますが、この読み方では意味が通りません。
主語がIやyouなのに述語動詞に三単現のsがつく、なんていうのもあります。

・ ‘So,’ says I to myself, ‘that’s their little game, is it?’

びっくりですね。


説明はとても丁寧です。非常に多くの国内外の辞書、文法書を参照して、出典を明らかにしています。

F.o.R.を一通り習得した方は是非手元に置いて、ときどき、1項目ずつでいいので読んでいると、楽しみながら、深い知識を身につけることができます。

私は、とても面白く読んで、知らなかったこともたくさんありました。中級から上級の方にお薦めします。

『ココがわかれば英語がわかる~英文50選に学ぶ読解のしくみ~』

井崎健著・文芸社刊・86ページ・定価1000円

英文読解の好著が発行されましたので。ご紹介します。
著者は、駿台予備学校で私と同僚だった方で、駿台時代は、その卓越した読解力から「井崎読み」という言葉が生まれたほどです。現在は埼玉県杉戸町で「高野台英語教室」を主宰しておられます。

自信をもって英語を読み書きするためには、選択肢の系が閉じている必要があります。たとえば、英文中にwrittenが出てきたら受身、完了、形容詞用法、分詞構文のどれかで読まなければなりません。この4つ以外の選択肢はないことを知っていて、実際に頭をこの範囲内で動かせることを「選択肢の系が閉じている」というのです。このことをはっきり認識して書かれた読解の参考書はほとんどありません。本書は、極めて珍しい例外です。

本書は50題の短文で構成されています。初めに、その英文を読むために必要となる「(系が閉じた)選択肢」を提示し、次にどのタイミングで(=どの語まで読み進んだときに)選択が行われるかを説明し、最後に具体的な選択のプロセスを詳細に解説します。選択プロセス(=これが読むということです)を練習するのに適した文が50題、極めて効果的に配列されています。読者は「選択肢の確認→選択するタイミングの発見→具体的な選択プロセス」を50回繰り返すことになります。様々な英文について、同性質の作業を繰り返し練習することで、英文を読むときの正しい頭の動かし方が自然に身に付くように作られています。

英文を読み書きするときの本当の頭の働きを言語化して、読者に伝えようとする点で、本書は私の著作と同じ基盤に立っています。ただし、著者が違うのですから、もちろん違いはあります。Frame of Referenceとの大きな違いは次の2点です。

☆F.o.R.は、学校文法で使用される文法用語は無条件で採用しているが、本書は、文法用語の使用を極限まで少なくしている。(たとえば過去分詞の選択肢を例にとると、本書は「後ろの名詞を修飾する / 過去分詞をとれる前の動詞につける / 『何が』と考えて前の(代)名詞か動詞に関連づける」としています)

☆F.o.R.は、まず英文の一般的な構造を理解するところに重点を置くので、「前から順番に読む」ことは学習が進むにつれて自然とそのようになると捉えられている。これに対し、本書は、最初から個々の英文を正確に読むことに特化しているので、意識的に「前から順番に読む」ことを実践している。(そのため本書では、ピリオドまで読んだときは常に読み終わっています)

この2つの違いから、本書はFrame of Referenceの習得に困難を感じる方にとって、私の著作より勉強しやすい可能性があります。

本書には次のような、英文の正しい読解法を求めている人にはゾクゾクするようなフレーズが散りばめられています。

・英文読解とは決してこれ以上のものでもこれ以下のものでもありません。
・一定のきまりを知っていてそれを適用した後その範囲ではこの文は読めないと認識できるのはもうほとんど読めたも同然なのです。
・英文読解がどのようなしくみでなされているのか、その様子が少しお分かりいただけたかと思います。

無駄を徹底的に削ぎ落して、できるだけありのままに、正しく読める人が頭の中でやっていることを文字化すると、本書のシステムに行き着くと私は考えます。英文読解に関心をお持ちの方にご一読をお薦めします。

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