英文読解の好著が発行されましたので。ご紹介します。
著者は、駿台予備学校で私と同僚だった方で、駿台時代は、その卓越した読解力から「井崎読み」という言葉が生まれたほどです。現在は埼玉県杉戸町で「高野台英語教室」を主宰しておられます。
自信をもって英語を読み書きするためには、選択肢の系が閉じている必要があります。たとえば、英文中にwrittenが出てきたら受身、完了、形容詞用法、分詞構文のどれかで読まなければなりません。この4つ以外の選択肢はないことを知っていて、実際に頭をこの範囲内で動かせることを「選択肢の系が閉じている」というのです。このことをはっきり認識して書かれた読解の参考書はほとんどありません。本書は、極めて珍しい例外です。
本書は50題の短文で構成されています。初めに、その英文を読むために必要となる「(系が閉じた)選択肢」を提示し、次にどのタイミングで(=どの語まで読み進んだときに)選択が行われるかを説明し、最後に具体的な選択のプロセスを詳細に解説します。選択プロセス(=これが読むということです)を練習するのに適した文が50題、極めて効果的に配列されています。読者は「選択肢の確認→選択するタイミングの発見→具体的な選択プロセス」を50回繰り返すことになります。様々な英文について、同性質の作業を繰り返し練習することで、英文を読むときの正しい頭の動かし方が自然に身に付くように作られています。
英文を読み書きするときの本当の頭の働きを言語化して、読者に伝えようとする点で、本書は私の著作と同じ基盤に立っています。ただし、著者が違うのですから、もちろん違いはあります。Frame of Referenceとの大きな違いは次の2点です。
☆F.o.R.は、学校文法で使用される文法用語は無条件で採用しているが、本書は、文法用語の使用を極限まで少なくしている。(たとえば過去分詞の選択肢を例にとると、本書は「後ろの名詞を修飾する / 過去分詞をとれる前の動詞につける / 『何が』と考えて前の(代)名詞か動詞に関連づける」としています)
☆F.o.R.は、まず英文の一般的な構造を理解するところに重点を置くので、「前から順番に読む」ことは学習が進むにつれて自然とそのようになると捉えられている。これに対し、本書は、最初から個々の英文を正確に読むことに特化しているので、意識的に「前から順番に読む」ことを実践している。(そのため本書では、ピリオドまで読んだときは常に読み終わっています)
この2つの違いから、本書はFrame of Referenceの習得に困難を感じる方にとって、私の著作より勉強しやすい可能性があります。
本書には次のような、英文の正しい読解法を求めている人にはゾクゾクするようなフレーズが散りばめられています。
・英文読解とは決してこれ以上のものでもこれ以下のものでもありません。
・一定のきまりを知っていてそれを適用した後その範囲ではこの文は読めないと認識できるのはもうほとんど読めたも同然なのです。
・英文読解がどのようなしくみでなされているのか、その様子が少しお分かりいただけたかと思います。
無駄を徹底的に削ぎ落して、できるだけありのままに、正しく読める人が頭の中でやっていることを文字化すると、本書のシステムに行き着くと私は考えます。英文読解に関心をお持ちの方にご一読をお薦めします。 |